なぜ高齢者にとって「フレイル」の予防や改善が重要なのか?その理由と簡単にできるおすすめの方法
監修者情報
福井 仁美
㈱ティップネス シニア事業スペシャリスト
ティップネスの店舗支配人を経験後、本社勤務の管理職に就任。
行政、民間の受託店舗のプロジェクトマネージャーとして、開業運営に携わる。
現在、スクール企画部配属でシニア事業の中心的役割を担い、プログラム開発や指導員養成事業に携わる。
自治体・企業向けの健康セミナーや講演活動も人気で、幅広く活躍中。
■資格
・介護予防主任運動指導員(東京都健康長寿センター)
・シニアスペシャリスト(全米エクササイズ&スポーツトレーナー協会)
・アドバンストレーナー(日本ポールウォーキング協会)
・上級トレーナー(日本ノルディックウォーキング協会)
・健康経営アドバイザー
フレイルとは
近年、ちらほら耳にするようになった言葉「フレイル」。「Frailty(虚弱)」から派生した言葉で、日本老年医学会が2014年に提唱しました。加齢とともに心身の活力が低下し、放っておくと要介護につながる危険性が高い状態を指します。
自らがフレイルに近いことに早い段階で気が付けば、前もって対策できるもの。適切な治療を受けたり予防のための行動をとることができます。
フレイルの3つの要因
フレイルには3つの要因があり、進行時にはこの3つの要因がなんらかの形で関わっています。どれかひとつではなく、総合的に要因と向き合い、解消していくことがポイントです。
身体的要因
身体的に弱ってしまうことで運動機能の低下(歩くのが遅くなる、長く歩けない等)、筋肉量の減少による体調の変化(体重減少・疲れやすくなる・食が細くなる)、口腔機能の低下により低栄養の状態を引き起こしやすくなります。
十分な栄養が摂れないため、さらに筋肉量が減少して体重も減少。慢性的な栄養不足が助長される負のサイクルに陥ります。
心理的要因
うつ傾向の強い方や、認知機能の低下が見られると、気持ちが落ち込み、外出機会が減ることで社会的交流が減り活動量が低下します。精神的にも身体的にも落ち込んでいきやすくなります。
社会的要因
ひとり暮らしや経済的な困窮があると、閉じこもりや孤食が発生しやすくなります。これらの社会的要因も活動量の低下や心身の不調に繋がるため、身体的・心理的要因と合わせてフレイルを助長していく要因となります。
どんな方がフレイルになるのか?
運動機能低下(筋肉量の減少)→基礎代謝(活動量)低下→エネルギー消費量低下→心理的・精神的な気持ちの低下→食欲・摂取量低下→低栄養(体重減少)→、このサイクルがどこか崩れると負の連鎖を起こしてしまいます。高齢者のひとり暮らしが増加する昨今、自分では気づかないうちにフレイルになっている高齢者も少なくないと言われています。夫婦のどちらかが先に亡くなると、残された高齢者は毎日の食事をひとりで済ませるように。たくさん作っても食べきれないからと食事内容も質素なものになり、食事量自体も減少します。
注意したいフレイルのきっかけとは
コロナやインフルエンザなどの感染症にかかると、一定期間の外出や人との関わりが制限されます。とくに入院となると、体を動かす機会や家族・友人との会話も極端に減ってしまいます。
療養期間がフレイル進行のきっかけとなり、高齢者が寝たきりになってしまうケースも。持病がある方は、持病の悪化による入院や要介護状態にも気をつける必要があります。
このほか、転倒や骨折など活動制限を伴うケガによって、フレイルの進行がはじまることも考えられます。体力には自信があって元気だった方ほど、急な入院で気分が落ち込み、うつ病や認知症を発症してしまうことがあるのです。
フレイル予防として気をつけたいこと
健康で元気に過ごしている方でさえ、ちょっとしたきっかけでフレイルになる可能性があることがわかりましたね。ではフレイルを予防するためには、どんなことに気をつけたらよいでしょうか。
食事をしっかりとる
フレイル予防のためには、バランスの良い食事を三食きっちりとりましょう。“自分だけだから”と思うと、つい手抜きしてしまうもの。三食すべて作ることが難しい場合は、そのうち一食分だけを栄養バランスが考えられた宅配弁当やミールキットにしてみるのも一案です。一食でもきちんとバランスがとれていると思うと、心の負担が軽減されますよ。
家族と同居している場合は「食べているつもり」にも注意です。家族で集まっての食事は楽しいですが、大皿料理をシェアすることも多いため、自分の食事量が減っていることに気づかないケースも。ひとり分ずつのお膳にすることで、自分が何をどれだけ食べているかを把握しやすくなります。
運動習慣をもつ
「運動習慣」と聞くと大変に感じますが、まずは軽く体を動かすだけでOK。足を毎日動かす事が重要です。散歩感覚で、1日30分~1時間程度歩いてみましょう。日光を浴びながらウォーキングすることで、骨や筋肉の維持に必要なビタミンDを作ることもできます。歩くことは気分を前向きにし、脳の活性化にも繋がります。うつや認知症予防にも効果的な運動なのです。
社会活動に参加する
地域のヨガ教室や絵画サークルなどに参加して、人と会話する機会を作りましょう。人間関係が希薄になると、出かけるのが億劫になったり認知症が進行する可能性が高まります。ウォーキング仲間を作ったり、友人と約束してランチに出かけるのもおすすめ!人との予定を作ると自然と活動量が増えて、脳機能の面からも運動面からも人と会うことはフレイル予防に効果的なのです。
直接会うことが理想的ですが、難しい場合はオンライン交流もよいですね。“誰とも話さない日”をなるべく作らず、画面越しでもよいので人と目を合わせて会話を楽しむ時間をもちましょう。
フレイルに効果的な運動とは
フレイル予防のために運動しなければ!と考えるのは良いことですが、大事なのは無理のない範囲で継続していくこと。頑張り過ぎない運動習慣としては、先ほどおすすめしたウォーキングがあります。ウォーキングのために時間をわざわざ作らなくても、いつものバス停の2つ手前で降りて歩いたり、ちょっと離れた公園まで歩いて植物の様子を観察したりするのもおすすめです。
ウォーキングのほか、自宅で簡単な運動を続けることも立派な運動習慣です。自宅トレーニングであれば天候に左右されず、自分のペースで体を動かせます。最後に、フレイル予防に役立つ簡単な自宅トレーニングをご紹介します。
<ヨガ・ガス抜きのポーズ>
股関節の動きを良くするヨガのポーズです。腸を刺激できるので便秘解消にも効果的!背筋が伸びることで腰痛予防の効果も期待できます。ガス抜きのポーズについてもっと詳しく知りたい方は、こちらの記事も参考にして見てくださいね。
■実際にポーズをとってみましょう
難易度:易しい
- 仰向けで寝た姿勢を取り、両膝を両腕で抱えます。
- 吸う息で下腹部を膨らませます。
- 吐く息で太ももを胸に引き寄せ、床にしっかりと腰を押しつけます。
- 3~4を穏やかに5回ほど繰り返します。
■ヨガ・ガス抜きのポーズのポイント
吐く息でしっかり膝を抱え込んで腸を刺激しましょう。
<簡単エクササイズ・かかとアップ>
テーブルに手をついてつま先立ちをするエクササイズです。ふくらはぎの筋肉が硬く、膝が伸びにくい方におすすめですよ。
■実際に行ってみましょう
難易度:易しい
- テーブルの正面に立ち、天板に両手をついてゆっくりとつま先立ちをします。
- そのまま10秒間キープします。
- ゆっくりとかかとを下ろします。
- 1~3の動作を20回繰り返します。
■簡単エクササイズ・かかとアップのポイント
つま先立ちのときは、両手に体重をかけ過ぎないように注意!ふくらはぎの筋肉を使って、体を支えましょう。
高齢者が健康長寿を叶えるコツは運動、食事、社会生活
近年フィットネスジムを楽しむ高齢者も多くなりました。体力の低下を防ぐのはもちろん、ジムに通う仲間ができるというのも大きなメリットです。人との関わりは、フレイル予防にとても効果的。運動後に仲間とランチを楽しめば、会話も弾み、栄養もたっぷり摂取できるでしょう。何歳になっても自分らしくあるために、早い段階からフレイル予防に取り組んでいきましょう。